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2010年 総評
クソゲーオブザイヤー(KOTY)……。
それは、不幸にもこの世に生まれてしまったクソゲーの頂点を決める悪夢の祭典である。
2009年、新鋭フリューの「三銃士」と、修羅の国からの黒船『戦極姫』によって蹂躙された携帯ゲーム機版KOTYスレであったが、
2010年もまた、荒野に芽吹く強靭な作物のように、彩り豊かなクソゲーが跳梁跋扈することと相成った。
今ここに、史上稀に見る熱戦となった2010年携帯ゲーム機版KOTYのあらましを著すこととする。
まず先鋒が名乗りを上げたのは2月。
ブロッコリーの『ゲームブックDS アクエリアンエイジ Perpetual Period』(「アクエリ」)である。
「アクエリアンエイジ」は息の長い美少女系トレーディングカードゲームだが、メディアミックスの迷走にも定評があり、
本作においても「ゲームブックを名乗りながら実際は単なるADV」という、『頭脳戦艦ガル』も顔負けのジャンル詐称をかましている。
内容面に関しても、ヒロイン6人中3人の声と文章が最後までズレているなど、本当にテストプレイを行ったのか疑わせる崩壊ぶりであったが、
最終的にCGモードを閲覧するだけでセーブ&ロードができなくなるバグが発覚し、疑惑は確信へと変わった。
後日談だが、唯一の存在意義であった初回限定特典が一般販売されることになり、購入者の心にもピリオドが打たれてしまったという。
それに続いて突如、戦時中さながらの空襲警報がスレに鳴り響くことになる。
前年王者システムソフトアルファー(SSα)による『大戦略PERFECT ~戦場の覇者~』(「大戦略PSP」)の襲来である。
本作は前年の『戦極姫』同様、もともとPCゲームとして出ていたシリーズをPSPに移植したものだが、
悲しいことに崩壊のレベルまでもが全く同様であった。
説明不足で意味不明なUIや、敵AIの思考時間の異常な長さは、もはや「SSαではよくあること」だが、
よもやカーソルを動かすだけでロードの嵐、キーレスポンスにすらラグが発生する事態になるとは誰が予想できたであろうか。
このように「ただプレイする」だけでストレスが募る本作であるが、
さらに恐ろしいことに、「そもそもバグのせいでまともにプレイすることができない」という異常事態が重なっている。
フリーズはステージクリア時、敵ターン終了時、ボタン押しっぱなし時など、ありとあらゆるタイミングで発生。
プレイヤーが自由に編成できる「マイ部隊」という機能は、いざ使ってみるとなぜか敵側に配置されていたり、
自国生産設備に突然名無しのユニットが現れ、うっかり選択すると問答無用でPSPの電源が落ちるなど、数多のバグの温床となっている。
あのSSαが「PERFECT」という名を与えただけのことはあり、上半期最後にして最大の爆撃によりスレは臨戦態勢に入ることとなった。
この『大戦略PSP』に触発される形で、3月に発見されていた不発弾にようやく解体班が着手する運びとなった。
同じくSSαから発売された、『現代大戦略DS~一触即発・軍事バランス崩壊~』(「大戦略DS」)。
「メインシナリオが無限ループする」というバグが原因でスレ住人が一人もクリアできず、選評が遅れたという曰く付きの作品である。
このバグを防ぐには開戦後即降伏を繰り返すという「土下座外交」を余儀なくされるが、素のシナリオも惨憺たるものであり、
隙あらば全面戦争に突入し、味方軍の圧倒的な戦力差ゆえ何も操作しなくても勝利可能という始末。
それに加えてもはや暗号解読の域に達したUIや、DSに移植したことで深刻化した敵AIの長考も、プレイヤーの苛つきに拍車をかける。
「一触即発」なのはどう考えても購入者の心理状態であり、
「軍事バランス」以前にゲームそのものが完全に崩壊していたのは言うまでもあるまい。
2010年も終盤に差し掛かった10月。
前年の「修羅の国」の瘴気に誘われたのか、今回は「乙女の国」からの刺客が現れた。
ロケットカンパニーによる女性向け恋愛AVG『天下一★戦国LOVERS DS』(「戦国」)である。
本作は女性向け恋愛AVG(乙女ゲー)に歴史要素を足した、同名の携帯アプリのDS移植版である。
シナリオは乙女ゲーの中でもひときわ異彩を放っており、三択で「夜伽」「夜伽」「夜伽」とだけ書かれた豪快な選択肢や、
「主人公を家臣に抱かせた後、いきなり略奪愛に走る主君と、それにあっさり応じる主人公」という超展開は物議を醸すこととなった。
だが、特筆すべきは、かの国の過酷なゲーム業界事情を雄弁に物語る驚愕の販売戦略であろう。
なんと本作には攻略キャラ9人の内わずか2人分しか完全なシナリオが収録されておらず、
残りに関しては携帯アプリ版で一つずつ最初の章から有料ダウンロードしなければ読むことができないのである。
そのたくましすぎる商魂は「5000円の有料体験版」、「続きは携帯で!」などといったキャッチコピーで賞賛された。
そうこうしているうちに、スレに12月が訪れる。
「年末には魔物が潜む」と言うが、今年も現れるのだろうか……
そんな不安を抱く住人たちの前に現れたのが、スターフィッシュ・エスディの『どんだけスポーツ101』(「どんだけ」)である。
本作は「スポーツゲームが101種類楽しめる」という触れ込みであったが、
低得点ほど信頼と実績があると評判の「ファミ通クロスレビュー」で5・6・4・3の合計18点を叩きだし、発売前から刺激臭を発していた。
いざ蓋を開けてみると、やはり詰まっていたのはスポーツではなくクソ的な何かであり、
槍を水平に飛ばして競う「槍投げ」や、飛び込む前に出てきたマークを覚える謎の競技と化した「アクロバットダイビング」など、
各スポーツのルールだけでなく地球上の物理法則すら感じさせない異常な仕上がりになっていた。
本作を制覇した勇者による「102種目めの『どんだけスポーツ101壁投げ』は神ゲーだった」という総括が全てを物語っていると言えよう。
だが、真の恐怖はここからであった。
「年末の魔物」は『どんだけ』ではなく、同じ日に生まれた全く別の作品だったのである。
その正体はアルヴィオン発売の『プーペガール DS2』(「プーペ」)。
2色のバージョンに分けて販売された本作は、アバターを「着せかえ」して楽しむ同名の女性向けSNSをゲーム化したものである。
だが、各色によって違うはずの「特典アイテム」がソフトではなくDS本体のみに依存していることが発売直後に発覚。
そのことを詰め寄られたメーカー側は「DS本体を2台以上用意しろ(要約)」と釈明し、出だしからきな臭い空気が流れていた。
肝である着せかえ部分についても、画面が乱れてグロ画像と化したり、拡大機能を使うだけで暗転フリーズする有様であり、
「ファッションショー」に出ても報酬がもらえない、一度出ると二度とお呼びがかからないなどといった不具合報告が噴出。
極めつけに購入者を阿鼻叫喚の渦に陥れたのが、発動率100%の「時限爆弾」である。
その爆弾とは、ゲーム開始から22時間経過後のサプライズイベントとして設定されている「ボーナス」であり、
プレイヤーに対して突然、ゲーム内通貨である「リボン」が何故か「マイナス」15536個プレゼントされるのである。
この際に足りない分のリボンは強制徴収されるが、所持リボンがマイナスになるとバグで外に出ることができなくなり、
自分の部屋で写真を撮ることで稼げる雀の涙ほどの収入でマイナス分を返済し尽くすまでほとんど何も行動できない。
これらに対する購入者の怒号は凄まじいものがあり、当初無視を決め込んでいたメーカー側も一応の対応を見せたが、
「22時間」バグの対処として公開されたコードについては、「入力済みとしかでない」といった報告が多発。
前述の特典アイテムについても最初に出した声明を撤回し、取れなかった方を無償で配布するコードを公開したが、
今度は購入者以外も特典を普通に入手できるという前代未聞の珍事を巻き起こし、火に油を注いでしまった。
本スレ有志のタレコミによって本作がネットニュースに取り上げられたことからも、購入者の怒りの程を察することができるだろう。
さて、実はまだ一本だけ、ここまでに紹介していない夏の作品がある。
携帯機KOTYには「年末の魔物」と並び称されるものがある。
その名も「夏の怪物」……人々が長期休暇に沸き立つ時期、その幸福をかすめ取るべく暗躍するおぞましい悪夢である。
そして、今年もそんな運命のもとに産み落とされた一本のゲームが、「年末の魔物」を迎え討つべく既に君臨していたのであった。
2010年ワールドカップ南アフリカ大会に列島が熱狂に包まれる中、ひっそりと発売されたゲーム……
それがドラスによるPSP専用ソフト『ハローキティといっしょ!ブロッククラッシュ123!』(「鬼帝」)だ。
本作は「ハローキティといっしょ!」というメディアミックス企画の一貫として発売された「ブロック崩し」のゲームであり、
著名な萌系イラストレーター陣が描く10人の「キティラー(キティ好きの女の子)」達が所狭しとパッケージに描かれている。
しかしながら、その内容は、「まさかHELLOではなくHELL(地獄)だったとは」と評されるほど凄絶なものであった。
まずボールに関してだが、「ブロックに斜めにぶつかった後、垂直に落ちてくる」、「バーの端に当たると下方向に落ちる」など、
三十年以上親しまれてきたブロック崩しの常識を覆す予測不能な挙動がプレイヤーを苦しめる。
また、自機であるバーの移動が異常に遅く、思い通りに動かせないため、ボールの反射を「見てから」では間に合わない。
本作独自の変態挙動を第六感で予知できるようにならなければ攻略のスタートラインに立つこともできないのである。
だが、どれだけ練習してもプレイヤーの腕だけではどうにもならない局面が多発するのがこのゲームの特徴である。
ステージ構成を見ても「ボールを加速して反射するブロック」や「復活するブロック」などの罠が自機の真上に設置してあり、
各ルートでネタ切れを起こす後半では、大量に発射される防御不能の砲弾がプレイヤーの命を狙い撃つのが基本となる。
ここまで来ると、プレイヤーは「HELL」の真実に気付くことになるだろう。
一般的に「難ゲー」と呼ばれるものは、技量や知識に裏打ちされた達成感を提供するものであり、必ずしもクソゲーとは呼べない。
だが、本作の異常な難度の本質は、製作者がゲームを面白くするために知恵を絞った結果のものではなく、
往々にして「プレイヤーを死なせること」だけを主眼にした、剥き出しの悪意と手抜きによる《無理難題》であるのだ。
例えば、「一気に壊した時の爽快感がヤミツキに!」と謳うルートの面が
「3回ぶつけないと壊せないブロックをガン並べしただけ」の嫌がらせのような構成であったり、
別ルートでは、不規則に動き回り不規則に球を反射するボスに「ボールを『50回』当てろ」という要求をされたりといった具合だ。
そして、そんな理不尽に耐えてきたプレイヤーを最後に待ち構えているのは、さらなる理不尽でしかない「運ゲー」である。
悪名高いそのステージは、砲撃の雨を避けながら「当てるたびに90度回転する6つの矢印ブロック」を指定の方向に揃えるというものであり、
それまで培ってきた超人的な操作感覚に加えて、気の遠くなるリトライ回数で幸運を掴むことでしかクリアできない。
予測困難な挙動もあり、揃えた矢印を自ら崩してしまう苦行が終わりなく続くその様は「セルフ賽の河原」と称された。
あまりの邪智暴虐ぶりから、誰ともなく本作を「ハローキティ」ならぬ「覇王鬼帝」と呼ぶようになったのもごく自然のことであろう。
さて、以上7つのノミネート作品を紹介し終えたところで、大賞を発表しよう。
まず初めに候補は3つに絞られたと言えるだろう。
前年覇者SSαの申し子『大戦略PSP』、年末の魔物『プーペ』、それに夏の怪物『鬼帝』である。
いずれも例年であれば圧倒的な力で勝利を手にしたであろう超大作が激突し、三つ巴の大決戦となった。
3月まで決着が付かず、爆発寸前まで過熱したこのレッドゾーンの死闘を制し、見事大賞に輝いた作品……
それは──『ハローキティといっしょ!ブロッククラッシュ123!』である。
本作を勝者たらしめたのは、「クソゲーとしての完成度」である。
クソゲーなのに完成度が高いとはこれ如何に、と思われるかも知れないが、
一見相反するこの二つの性質は、ある特異な状況においては両立しうる。
それは「製作者が仕様通りに完成させたゲームがクソゲーであった時」である。
思い起こせば2010年は、製作者ですらプレイしていないのではないかと思わせるバグゲーが量産された。
中でも『大戦略PSP』は、あまりのバグの数によって早々にキャンペーンのクリアは不可能と断言されており、
『プーペ』はと言えば、本スレにも「遊べないからゲームの話題をしようがない」と書き込まれる状態であった。
だが、『鬼帝』の場合、これといったバグが存在せず、決められた仕様の範囲では完成していると評価せざるを得ない。
他二作とは逆に、製作陣が「ゲームの内容を把握した上で敢えて今のように作った」という疑いが強いのである。
また、クソゲーというものは元来、制作期間や予算の不足による不本意な結果であることが多く、
どんなクソゲーにおいても基本的に、製作者が当初盛り込もうとした魅力が申し訳程度には見出されるものである。
例えば、『大戦略PSP』の場合、実在の兵器が登場したり、マップ編集機能など戦略SLGの基本部分は押さえており、
移植元の「大戦略」シリーズの面白さを部分的に体感することができると言えるだろう。
『プーペ』もまた、前述のようにアイテムのデザイン自体は評価の対象となっており、
さらに言えば特典コードとは別に、本家SNSで使えるコードもゲーム中で取得できる。
一方、『鬼帝』に関してはそうした肯定的に評価できる点を見つけることは困難である。
本作を飾っている萌えキャラ勢は一見このゲームならではの魅力であるように思えるが、
その実、豪華イラストレーター達のいたいけなファンを釣り上げるための「疑似餌」でしかない。
「超絶難度」、「製作者の悪意」、「運ゲー」という地獄の三段構えのゲーム内容については前述した通りだが、
それを超えたプレイヤーを待っている「ご褒美」は、全てが既に各種媒体で使い回されているイラストであり、
とどめとばかりに高画質版がPlaystation Networkで50円で全て購入することができる。
これではクリアした瞬間にそれが壮大な徒労であったと宣告されるようなものであろう。
このように、本作はプレイヤーに無理難題を押し付け、理不尽に耐えてクリアしたプレイヤーさえも最後に脱力させてしまう。
さて、このようなゲームを我々はどこかで見たことがあるはずではなかろうか。
80年代を代表するクソゲーとして知られるあの伝説の怪作……そう、『たけしの挑戦状』である。
思えば『鬼帝』は、クリアしても虚無と絶望しか得られないことが早い段階で報告されていたのにも関わらず、
クソゲーハンター達を惹きつける「負の吸引力」を持っており、多くの猛者を拷問の渦へと誘いこむことに成功した。
それもひとえに本作が一種の製作者からの「挑戦状」だからこそ、彼らの冒険心をくすぐったのであろう。
むろん、クソゲーとして吸引力があったからと言ってゲーム自体が楽しいわけでは一片もなく、
本作のようにクリア達成者から異口同音に「クソゲー」と罵倒された作品はそう多くあるまい。
『鬼帝』は、四半世紀の時を経て現代に転生したクソゲー愛好家たちへの「挑戦状」であったのである。
2010年も様々なクソゲーが産み落とされた年であった。
『アクエリ』、『大戦略PSP』、『大戦略DS』、『戦国』、『どんだけ』、そして『プーペ』に『鬼帝』……
奇しくも、盛況で知られる2008年据置機KOTYと同じ7作のノミネートに恵まれた年となったが、審議の混迷ぶりはそれ以上のものとなった。
これらの個性豊かな作品の中でも特に、『大戦略PSP』は前年を制したSSαバグゲーの神髄を見せつけるものであり、
また、『プーペ』を巡る顛末は、DSの普及によって増えた女性ゲーマーの怒りと悲しみがクソゲー界に鳴り響く象徴的な事件となった。
そして、『鬼帝』は未来永劫続く「ブロック崩し」のゲーム史に燦然と輝く「クソの記念碑」としていつまでも語り継がれてゆくことであろう。
最後に、『ハローキティといっしょ!ブロッククラッシュ123!』をリリースした「ドラス」と、
不幸にも本作に巻き込まれてしまった人気イラストレーターの方々に向けて、
次の言葉を贈ることで2010年携帯機版KOTY総評の結びとする。
「H E L L O ! K O T Y !!」