2008年の携帯機クソゲーオブザイヤーは、ゲーム市場の主流が携帯機へ移行したことを強く印象づけるような、勢いのあるスタートを切った。
尖兵をつとめたのは『梅沢由香里のやさしい囲碁』である。
「やさしさ」を微塵も感じさせない、CPU戦の99:59秒(カウンターストップ)以上の長考。
対人戦はダウンロードはおろかワイヤレス対戦すら実装しておらず、1つの本体を交互に使って対戦するしかない。
問題集を解こうとすれば開発者への指示と思われる文章が出てフリーズする。
梅沢先生の色っぽい声だけが救いであったが、多くのプレイヤーは囲碁をすること自体が手詰まりとなり、ゲームごと投了した。
同日発売の、「THEゾンビクライシス」もSIMPLEというハンデを軽々乗り越えノミネートされた。
「貧弱なエフェクト」「シビアすぎる当たり判定」「無駄に長く単調なステージ」等とプレイ意欲を削ぎ落とすというクソゲーの基本をしっかり抑えており、 選択ルートを間違えると無限ループに陥る等というバグも完備。
ゾンビの動きが少なく、同種のゾンビが出ると「死霊の盆踊り」としか言いようがないシンクロ率100%のダンスを披露するネタ要素まである。
携帯機に於いても、クソゲーマイスターの呼び声高いドリームファクトリーの面目躍如と言った出来であった。
とあるSIMPLEシリーズ愛好家のユーザーの「ドリフは太陽系から出て行け!」という叫びが印象深い。
以後、彼は
「ドリフは悪の秘密結社」
「お前が糞をプラスチックで固めたものをゲームと言い張って売るのが上手なのはよく分かったからもうやめろ」
などと悲痛な叫びをあげ続けている。
開幕ダッシュを決めた携帯機2008年KOTYの次なるノミネートは、強豪ロケットスタジオが送る「海腹川背Portable」である。
本作は発売前から
「発売延期を繰り返す」「スクリーンショットの出来の悪さ」「公式サイトの「海原川背」というタイトルの間違い」
「過去作の開発者が不参加」「据え置き機ノミネート作『カルドセプトサーガ』のロケットスタジオが開発」
など不安要素が満載だったが、体験版の配信でそれは杞憂では無いことが判明した。
壁を貫通したりべったりはりついたりするロープ、ぶら下がっているだけなのに突如謎の振動を始めるキャラ等など、旧作ではあり得なかった謎の挙動が続出。
ファンの不買運動や修正の嘆願があったものの、何ら対応されること無く発売され、見事ノミネートされることとなった。
据え置き機での実績を持つ会社が次々とノミネートする中、絢爛舞踏の如く旧作ファンを撃滅した芝村裕吏氏もここで電撃参戦。
初弾の「ぷちえう゛ぁ」はそこらのwebに転がってそうなflashゲーの詰め合わせ的内容。
よく訓練された信者にさえ、
「4500円のカレンダーを買ったらDSのソフトがついてきてラッキーだった」
とまで言われる出来であり、発売から2週間足らずで特典付き新品がワゴンに並ぶという前代未聞の戦歴を残した。
続けて発射された「エンブレムオブガンダム」もやればやるほど作業感の増すSLGパートだけならいざしらず、
ガンダムに対する知識が足りないにも関わらずストーリーや設定を独自解釈し、
内容的にも日本語的にも高周波の電波を発生させ、多くのガンダムファンを失笑させた。
両作品とも、「原作ファンしかわからないネタだらけ」なのに「原作ファンからは失笑を買う」という
どの層を狙ったのかがサッパリわからない内容であり、氏の撃墜数がまた伸びたであろうことは疑う余地がない。
夏にはクソゲー甲子園が開催され、据え置きKOTYにおいては剛速球のクソを投げつけ開幕をつとめた、タカラトミーのメジャーも中継ぎとして登板。
「メジャーDS ドリームベースボール」である。
アニメのストーリーをなぞって野球やミニゲームをクリアしていくという内容だが、
「スチールできない」「内野ゴロが存在しない」「打球はフィールド内に飛んだら100%グラブに触れる」
という謎仕様。
1アウト3塁で外野フライでもタッチアップしないCPU。
「ポーズ不可能」「キャラゲーなのにキャラ判別不可能」
とファミコン時代を感じさせるシステム。
更にミニゲームでは走って一輪車で土を運ぶとミートが上がり、バッティング演習ではカーブが取得できると、もはや意味が分からない。
こんな内容だがクリアに1時間半もかからないためWiiの『メジャーWii 投げろ!ジャイロボール!!』の長さにイライラした人には安心の設計であった。
対戦格闘ゲームという、一度ブームの頂点を迎え、熟成されたジャンルからのノミネートもあった。
「ウィンディ×ウィンダム」である。
無限コンボの実装に始め、ノックバックなど基本の調整から、演出面、止めのトレス疑惑まで、問題なくノミネートクラス。
「宇宙ヤバイ」と言わざるを得ない出来であり、選評者やプレイヤーがKOされてしまったが、おそらく精神的ダメージによるものだろう。
ディースリーがフルプライスで発売した「UNKNOWN SOLDIER 〜木馬の咆哮〜」は(KOTY的な意味では無く)ある程度の期待されての発売であったが、残念ながらノミネートされてしまった。
これは、同社発売の好評だった「THE 歩兵」に比べ勝る点が値段の高さしかなかったためであり、木馬ではなく購入者が咆哮した。
8月発売の「みてはいけない」は、心霊写真に現れた霊を塗りつぶして除霊するという、異端のゲーム。
しかし、その内容は「かってはいけない」ものであった。
1問目ですぐに「あからさまな合成写真」であると分かる。
おまけに認識が非常に厳しく、わかっているのに答えられず次の写真へと移ってしまい
時間切れになるとやり直すことができず、二周目に行くかデータを消すしかないのだ。
さらにグッドエンディングを見るにはノーヒントで異常な条件をこなさなければならないこともポイントである。
二周前提で、一周目にとある失敗をしておくというクリア願望の裏をかいた高度なトリックが仕込まれており、そのうえで特定の手順を踏まなけばならない。
このような理不尽な内容であるにも関わらず、途中で間違ったらやはりデータを消す以外にやり直せないのは、まさに心霊現象さながらの理不尽さである。
9月発売の「逆境無頼カイジ Death or Survival」は、ギャンブル漫画原作にしてギャンブル要素皆無のミニゲーム集であった。
シナリオでは辛うじて原作をなぞっているものの、原作にあった熱い駆け引きは皆無。
当たりが見えているという、もはやクジ要素の無いクジ。
原作の印象的なシーンの焼き土下座は時間を測るだけ。
タッチペンでなぞるだけの鉄骨渡り。
原作のストーリさえなぞっていればいい、というIFやコンパイルハートの姿勢が伺える作品であった。
このように、タカラトミー、ドリームファクトリー、ロケットスタジオ、コンパイルハート等の数々の強豪がひしめく中、2008年クソゲーオブザイヤーが決定された。
夏のクソゲー甲子園優勝、『めざせ!甲子園』である。
思えば、2005年にGBAで発売された『めざせ!甲子園』は
「恐ろしく稚拙なグラフィック」「単調で場面が変わるたびに途切れ、最初から再生されるBGM」「背景と同化してしまう忍者のような選手達がいる」などのシステム面。
二年生がいるのに一年生が何故かキャプテンに指名される無理があるストーリー。
「一定確率でバットを振ってくるためボール球を投げていれば勝ててしまうCPU」「スライディング中は塁に触れていてもアウト」「デッドボールがない」「フライをキャッチしてもフェアになることがある」
等のルールの解釈。
「セカンドが一二塁間ではなく二塁上にいる」「打率が五割なら「.050」と表示される」「ランナーがいる時ゴロを打ち、ランナーがアウトになっても打った本人が塁にいれば打率が上がる」「アウトカウント関係なく一番進んでるランナーを刺そうとするCPU」
といった制作者の野球に対する理解度。
このように、多方面で大物っぷりを発揮しており、甲子園から連想される「逸材」「怪物」「魔物が棲んでる」などの単語にふさわしい出来を見せつけてくれた。
これは2008年のKOTY総評であり、3年前のゲームを語られても困るかもしれないが、もっと困るのは上記の内容をほぼそのままに、今年DSで発売されてしまったという事実である。
タイトルまでそのままであり「DS」や「2」などは付いていない。
変わったのはイベント時のキャラデザ、音楽の質の向上、2画面・タッチパネルに対応、といった些細なところで上記の問題点は完全に放置されている。
前作の選手パスワードもそのまま使えるという徹底振りだ。
ほぼ手を加えず移植したのはこれは野球や高校野球のゲームではなく「めざせ!甲子園」というジャンルのゲームだったという可能性もある。
むしろ、そう思いたい。
本来移植というはインパクトが弱くなりがちであるが、3年前の時点でクソゲー評価が固まっていたものを完璧な移植度で再現したという点が高く評価された。
世に言う「誰が得するんだ?」という文言がこれほど似合うゲームも無いと思われる。
製作会社であるタスケが、何故これを移植したのかは未だ謎である。
発売日当日に公式サイトすら無かったので売る気があったのかも謎であったが。
『海腹川背Portable』の「移植」、『メジャーDS ドリームベースボール』の「野球」、『梅沢由香里のやさしい囲碁』の「いわゆる安牌のジャンルをクソゲー化」
と、多くのポイントを抑えていることも2008年を代表するクソゲーとして相応しい。
2008年を振り返って見ると、どのジャンルにも多種多様なクソゲーが登場し、市場の大きいDSには特にその傾向が強く見られた。
野球、囲碁など余程の事がない限りノミネートすらない、と楽観されていたジャンルにももはや安住の地は無い。
来年に向け、次の言葉をもって2008年KOTYを締めくくりたいと思う。
ク ソ ゲ ー の 熱 い 物 語 が 今 始 ま る